2021年度のKTGUセミナーに参加してきたので、その体験記です。
KTGUセミナーとは
学部一、二回生が大学院生と一緒に約半年にわたって数学のセミナーを行うものです。 基礎論から代数幾何解析、計算機科学に至るまで、大抵の分野が対応されています。
KTGUのメリット
自分よりその分野をよく理解している人とセミナーをすることができます。僕の観測範囲では学部生/院生 ≤ 1という少人数制です。
これは結構凄いことで、世の社会人学習者が大学院生に数千円もの時給を払って数学を教えてもらっていることを考えると、よく理解できるかもしれません。 大学院生は数学教室から給料が出ているようですが、もちろん学部生側が払うことはないです。
また、形式的には自主ゼミとかなり似ていますが、普段は一緒に勉強を進めているゼミ仲間が既に教科書を履修済みという状態なので、当然行間は指摘されます。 行間でなくても、定理の条件をひとつ外した時の反例や、どこでその条件が効いているのかなどは突っ込まれると思います。 初回はそれに面食らって、あたふたしながらその場で反例を考えたりしていました。
僕が参加してきた自主ゼミが比較的ほんわかしていたのかもしれませんが、あまり初学者同士のゼミでは細かい指摘は起こりにくいし、起こしにくいです。 このような経験は早いうちにしておくとその後の数学書を読むことに対する姿勢が変わりうるので、とても良いことだと思っています。恐らく複利的に効いてくる類のものではないでしょうか。
そういう意味では、数学書の読み方を習うセミナーと思って参加するのもいいかもしれません。
個人的には、基本的な命題や操作が何も見ずとも詰まることなくできることの大切さを学びました。
さて、局所環が絶対平坦ならば体であることはHahn-Banachやvan Kampen程度の非自明さをもつ(つまりそこまで難しくない(はず(主観)の))事実ですが、それらの証明をすぐにできるでしょうか。
教科書の前の方の演習問題で局所環が絶対平坦ならば体であることが問われていて、そこで僕は解けていました。 後ろの方でこれを証明に(暗に)使う演習問題があり、その発表時に局所環が絶対平坦ならば体であることを自明なものとして使うと、
「それ、証明できますか?」
「えー、今すぐにはどうでしょう」
「では、その証明ができたら終わりましょうか」
となって、証明できるまで帰れまてんが始まりました。落ち着けばそこまで難しくないものでも、人前で考えるのは難しくなることがあります。このときは焦りと焦りと焦りで、結構地獄でした。
今思えばこれくらいはできるようにすべきですが、当時は院生さんの
「テンプレートな議論をすればできますよ」
という言葉に圧しか感じていませんでした。当たり前のことを当たり前にできる力というのは大事ですね。
また、『大学院生』が実際にどのようなものかを知ることができるのも利点のひとつだと思います。僕の友人や知人にはかなり優秀(だと僕は感じている)人たちが沢山いますが、彼らの優秀さと担当していただいた院生さんのそれはベクトルが違うように感じました。
僕は三、四回で翻天覆地的なことが起こることに賭けます……!
KTGUのデメリット
KTGUのデメリットというと主語が大きすぎるので、僕が不都合に感じた点と読みかえてください。原因は大体僕の能力不足なので。
僕が参加したKTGUの教科書はAtiyah-Macdonaldだったので、ほとんどの時間を演習問題の発表に使うことになったのも不運でしたが、その形式のKTGUと僕の時間割の相性が最悪でした。 僕の時間割ではKTGUのある曜日に、次の日の夜までの提出物が課される科目がありました。
少し想像してみてください。
当然ですが、セミナーで演習問題を発表する回には演習問題を解けていなければ発表することがありません。 そんなことは許されないので、一定量解けていない週には前の晩に徹夜して、当日の授業で内職してでも解いていました。教員さんに瑕疵のない内職は良くないことですが、席の近かった友人は思い当たる場面があると思います。
当日の授業が出席を取られる類のものだったことも不運でした。
さて、このように少し無理をして、なんとか発表を乗りきったとします。僕は家が遠いので帰宅は23時くらいになります。徹夜明けの睡魔には耐えられず、そのままお布団に直行です。次の日は少し起床が遅くなるのは仕方がないことでしょう。 そして次の日は演習の授業があるので、たった一時間の演習のために二時間以上かけて大学へ行きます。そして授業が終われば、二時間半以上かけてバイトに直行です。そしてバイトが終わるのは提出期限後……。さらに、僕は電車酔いをするので電車内で課題をすることができません。
我ながらよく頑張ったと思います。
結論
数理科学系志望の一般理学部生はKTGUに行きましょう!
あとがき
Twitterで適当に呟いた『KTGUってなに?』というツイートに、わざわざDMに来てまで説明して頂いたうめこぶさん、ありがとうございました。 あのDMがきっかけで参加することができました。
ないとは思いますが、もし、万が一、何かの拍子に担当して頂いた院生さん方がこれを読むことがあったときのために、念のため、一言だけ書いておきます。 ありがとうございました。